70%
この数字が何か解りますか?
今回のサブタイトルが「命の水」ですから、まず思い浮かぶのが人間の体の水分量。
ご存知のように人間の体の約70%は水でできています。
人間の体は平均的な大人で毎日2・5リットルの水分を消費し、毎日同じ量の水分を補給しなければ脱水症状が起きてしまいます。
人間は常に水がなくては生きていけない動物です。
さらに人間が生きていくうえで必要なのは飲み水のように体に取り入れる水だけではありません。
顔を洗うにも、歯を磨くにも、お風呂に入るにも水は必要です。
我々が毎日どれだけの量の水を使っているか想像できますか?
なんと毎日一世帯あたり245リットルもの水を消費しているそうです。
245本のペットボトルを想像してみてください。
御母さんに「今日使う水を買ってきて」と頼まれたら「絶対に無理!」と即断できる量です。
東京には1200万人以上の人間が住んでいますから、その量たるやハンパな数字ではありません。
これだけの人間が必要とする水を絶えず供給してくれている水道システム。
よ〜く考えてみたら凄い事です。
感謝しましょう!
そして次は、あまり知られていない「命の水」の70%
都民がお風呂や炊事、洗濯、トイレなどで毎日245リットルもの水を「消費」しているといっても、使用した水は消えるわけではなく全て生活排水として下水に流されます。
そして、下水として流れる水は我々の出す生活廃水だけではありません。
下水とは家庭や工場から流れ出る排水と雨水を合わせたものです。
これら下水は下水管を流れて下水道局の管理する「水再生センター」に送られ、浄化処理されます。
都市に降る全ての雨水と1200万人の人間が出す生活廃水、そして工場から出る工場廃水の合計が下水の量となりますから、東京都が処理する下水量はハンパな量ではありません。
一日の下水処理量は23区で約461万立方メートル、多摩地域で88万立方メートル、合わせて約549万立方メートルにもなります。
月並みな例えで言うと一日で東京ドーム4・4杯分。
処理される下水が東京ドーム4・4杯なんて言われても、東京ドームに水を入れたのを見たことがないから想像できない、又はそんなもの想像したくないという貴方のために、もっとリアリティーのある話をしましょう。
東京の中心を流れる隅田川。
夏に有名な花火大会が開かれる隅田川の両国橋付近では、なんと川の水の約70%が下水を処理した後の水だそうです。
たぶん、隅田川や日本橋川を見たことのない人は、このような話を聞けば汚い川だと思われる事でしょう。
しかし、現実は違います。
ドブの臭いなど一切しません。
透明度も高く、小魚なども豊富に生息しているキレイな川です。
僕が衛星放送でやっている釣り番組「シーバス・ラボ」は隅田川河口をメインステージにしている番組ですが、ここは日本有数のスズキのメッカでもあります。
スズキは好んでこの川に集まってくるのですが、この隅田川に住む魚にとって「命の水」の70%は我々が再生した水なのです。
東京都では下水を処理する所を下水処理場と呼ばず、「水再生センター」と呼んでいます。
「処理」ではなく「再生」
世界に誇る最先端の水再生技術。
濾過、沈殿の後、バクテリアを利用し汚水を有機分解させ水を再生する。
このシステムは熱帯魚などを飼育する時に使う水槽の濾過システムと基本的には同じです。
それの巨大で高度なもの。
水槽で魚を飼った事のある人ならお解りだと思いますが、水槽の濾過槽で濾過システムに最も負荷をかけるのはエサの食べ残しです。
水再生センターの処理施設も同じ。
我々が日常生活で出している排水の中で、最も処理施設に負担を掛けているのは風呂やトイレの排水ではなく、食べ物の残りを台所から流してしまう事なのです。
例えば、大さじ一杯のマヨネーズ。
これを台所で洗い流したとします。
このマヨネーズを流した水を魚が住める水にする為には、どのくらいの水で薄める必要があると思いますか?
なんと風呂20杯もの水で薄めないと魚の住める水にはならないのです。
大さじ一杯のマヨネーズですらこれですから、油そのものがどれほど凄いか考えるだけでも恐ろしくなります。
水を汚す原因として、最も悪質なのは「天ぷら油」。
これを排水に流すのは、水再生施設に対するテロ行為とも言える所業!
大雨の後など、隅田川河口に位置するお台場周辺で見られるオイルボールと呼ばれる浮遊物。
この正体は天ぷら油なのです。
日本が誇る水再生施設の能力にも限界があるのです。
食事の後、台所で皿を洗う時、残り物をそのまま流してしまわないで、古紙で拭き取ってから洗う。
もし、東京中の人が、明日から同時に行動に移したら、翌年の夏、東京の海は何処も泳ぐ事に抵抗の無い海に変わっているはずです。
「絶対に油類を台所の排水に流してはいけない!」
「スープなど食べ物の残りを安易に台所で流してはいけない」
海で遊ぶ俺たちは、この意味を理解し、周りに啓蒙する義務があります。
先日、釣り番組のロケで隅田川の河口にあるレインボーブリッジに行き、シーバス(スズキ)を釣りました。
そこで釣ったシーバスがヘッドシェイク(針を外そうとして水面で暴れる行為、エラ洗いとも言う)をしながら吐き出したのは大量のアミ(右上)。

アミとはオキアミなどで知られる動物プランクトンの一種(エビに似た甲殻類)ですが、ここで大量発生していたのはイサザアミ(写真左上)と呼ばれる汽水で生息する種類です。
よく海を見てみると、辺り一面イサザアミで一杯!
まさにエビスープ状態!
これなら東京湾にクジラが迷い込んでくるのも理解できます。
東京に住む1200万人の人間が使用し処理施設で再生された水。
その水にはリンや窒素といった植物の栄養になる無機質が豊富に含まれています。

その栄養素を吸収し、太陽の光で光合成を行い、植物プランクトン(写真右中)が育ちます。
東京の海が濁っているのは汚れているからではありません。
植物プランクトンの密度が濃いからです。
その植物プランクトンを食べて、アミなど動物プランクトンが増えます。

そして、その動物プランクトンをイワシやハゼなど小型の魚類が食べ、その小型の魚類をスズキ(写真左下)など大型魚類や、カモメや海鵜(写真右下)など鳥類が食べる。
漁師の言葉に「海は山が育てる」と言う言葉があります。
背後に豊かな森林を持つ海は、森林から流れ出る有機分を栄養素としてプランクトンが大量に発生し、豊かな漁場が育つという意味です。
しかし、東京の海は森林ではなく人が育てる海。

大都市に生活する1200万の人間を底辺とする食物連鎖のピラミッド。
高度に洗練された水再生システムに支えられるなら、都会に住む俺たち人間も自然の一部になれるという事です。
